コロナ禍実態調査アンケート 結果リポート

2020.5.29

映画やドラマを始め全ての映像業界は、コロナ禍によって、3月半ばから5月末現在まで、企画準備から撮影、

仕上げ、劇場公開に至るまで休業を余儀なくされ、厳しい生活を強いられてきました。

そしてこのあおりを一番受けたのがフリーランスの映像関係者でした。

 

5月25日に緊急事態宣言がようやく全国解除され、段階的に社会生活は平常化に向けて動き出しましたが、映像の現場に於いては依然としてまだ不透明な状況が続いています。

むしろ映像業界は、これからが本当の正念場だと言えるかもしれません。

 

映職連(日本映像職能連合)では、4月28日~5月17日までの期間、ホームページを使い、フリーランスの映像関係者の実状について、協会員であるなしを問わずアンケートに答えて頂き、実態調査を行ないました。

500人に上る回答が寄せられ、50ページに亙る報告書には、コロナ休業下の映像関係者の生々しい実態と叫びが溢れていました。

と同時に、今後に向けて我々映職連が果たすべき役割や課題も、より明確になったと思います。

 

5月21日、この報告書を手に映職連各団体から代表者1名ずつが参加し、文化庁担当者の方に提出、窮状を訴え、支援をお願い致しました。

 

5月29日に経産省担当官とリモート会議を開催、同様に強く支援を要請致しました。

 

アンケートにご協力くださった方々には、窮状にあえぐ中、真摯にお答えいただき、本当に感謝申し上げます。

貴重な証言やご意見をしっかり活かして参ります。

アンケート結果をご報告させていただきます。

(※なお、ご紹介したコメントは回答者が特定されないよう、職種は伏せ年齢のみの表記としています)

 

 

【調査概要】

 

主催:日本映像職能連合  

期間:2020428日~517

対象:映職連協会員を含むすべての映像業界関係者  

方法:WEB集計(Google フォーム)

内容:9問の質問で構成

 

  ①年齢  

 ②業種  

 ③映職連加盟団体の協会員か否か 

 ④新型コロナウイルスによりどんな影響があったか  

 ⑤影響を受けた作品形態 

 ⑥発注元・製作会社  

 ⑦仕事状況

 ⑧今後の見通し  

 ⑨要望・意見

 

【アンケート集計結果】  

 

総回答者数 500人  

 

<内訳>

 

①年齢 

 

10代~20代 11.6

30代 25.6%  

40代 26.4%  

50代 22.8

60代 12.0%  

70代以上 1.6

現在の現場の中心といえる30代~50代の回答者が8割近くを占めました。

 

 

②業種 

 

監督・演出 12.2%  

撮影 25.6%  

照明 5.8%   

録音 12.6%  

美術 6.4%  

編集 5.8%  

スクリプター 7.0%  

シナリオ 9.6% 

制作部 3.8%  

その他 11.2

各パートから平均して寄せられ、中でも撮影部から他の倍以上の回答が寄せられました。

 

 

③映職連協会員か否か

 

協会員 (216名)43.2%   

非協会員 (284名)568

非協会員の方の回答が半分を超え、事態の切実さが改めて浮き彫りになりました。

 

 

④新型コロナウイルスによる影響 

 

a. 仕事が途中で中断になった 34.4

b仕事が始まる前に中止になった 21.8

c仕事が延期になった 28.4

d仕事は続いているが今後のスケジュールが変わった 12.6

e特に影響なし 2.8

acの「休業による大きなダメージを受けた人」だけで、84.6%に上りました。

 

 

⑤影響を受けた作品形態 

 

映画 42.5%  

連続テレビ 21.5%  

単発テレビ 3.7%  

ネット配信 5.9% 

CM 7.0%  

コンサート・ライブ 2.4% 

ドキュメンタリー 1.8% 

TVドラマ 1.3% 

その他 10.8%  

無回答 3.1 

映画とテレビドラマ作品に関わった人が回答者の7割近くを占めています。

 

 

⑥発注元・製作会社 

 

大手映画会社・テレビ局、広告代理店から自治体、メーカー、大小さまざまな制作会社など多岐に渡りますが、具体名は省略します。

 

以下、回答の中身をご紹介していきます。

 

 

⑦仕事状況 

 

「進行中の作品が中断、今後予定されていた仕事もどうなるか分からず収入の目途が立たない」(20代)

「仕事はすべてキャンセルになりました」(30代)

「とにかくコロナが収まるまでは、ということで何の連絡もない。無期限の延期」(30代)「仕事がなくなり、夏まで合計3本の仕事が飛んだ」(40代)

「収入ゼロ。年内予定なし」(50代)

 

などなど、ほぼ全ての職種、年代の方から休業以降全く仕事がなくなったと回答があり、映職連加盟団体職種以外の、俳優、プロデューサー、ライン・プロデューサー、ヘアメイク、車両部、スチールマン、ロケ弁当屋さん、映画ライターの方などからも同様の声が届いています。

また、収入が低い後輩の若手(助手)の生活について心配する声も多く聞かれました。

 

「助手さんたちはより経済的困難に見舞われている。経済が再開できても若手スタッフはいなくなっているだろう」(40代) 

「若手の生活が苦しそうです。微力ながら個人的に助けたりしているが、個人的な支援には限界がある。コロナの前からすでに人材不足、特に若手不足の状態がさらに悪化しそうです」(30代) 

 

コンサート撮影など音楽関係のスタッフからは、舞台公演の自粛解除は当分先になることが予想されるだけに、

 

「真っ先に自粛を始めた業界なので元に戻るのは最後になるかと。このまま続くと会社は間違いなく倒産、この業界そのものが消えて行くのではと不安」(50代)

 

と強い危機感の訴えがありました。

 

 

⑧今後の見通し 

 

緊急事態宣言中のアンケートだけに全く見通しが立たないと言う回答が大多数でした。

 

「もってあと1か月」(20代)

「貯蓄を生活費に回しているが、この先もたない。家族に不安を与えないよう仕事があるふりをしているのが辛い」(30代)

「かなり厳しい。家族間の不毛な争い、不仲が続いている」(40代)

「全くわかりません」(50代ほか多数)

 

今後の生活について、映像業界は基本的にギャラが後払いという商慣習のケースが多く、再開後の収入がかなり後になってしまう心配をされる回答も多く見られました。

 

「映画、ドラマの場合、非常事態宣言が解除されてもそこから1か月以上の準備を経て撮影開始となる。5月一杯で解除されても、撮影は7月中旬で、その仕事が終わってもギャラの支払いは10月となる。その場合、半年収入がない。給付金の10万と100万が出ても家族でとても暮らしていけない」(40代)

 

同様に録音関係スタッフなど機材が必要で事務所を置く職種の場合も深刻です。

 

「再開できるのか心配ですし、再開できてもお金が入ってくるのが2~3か月後なので、仕事場の家賃も6月には払えなくなり、もし仕事が再開されても場所がないのでどうしたらいいか不安」(50代)

 

副業・廃業・転職を考え始めているスタッフもかなり沢山出ています。

 

「副業を始めようかと悩み中」(20代)

「来月の様子を見て、別仕事に替える方向を考えている。正直いまの状況から別仕事に替えることは、年齢や体力、精神的にとても厳しいと思うが、家族を養う為にどんな仕事でもやるつもり」(30代)

「全く見通しが立たない。貯金を切り崩しながらコロナ収束を待つしかない。配達のバイトでもしようかと思う」(40代)

「コロナ騒動が収束しなければ、撮影の仕事は戻らないと思う。アルバイトを考えている」(60代)

「緊急事態宣言が解除されたとしても、いつ仕事が再開できるか分からない。あるいは廃業か?」(70代)

 

 

⑨要望・意見 

 

政府に更なる補償の継続化や補償システムを求める切実な声が多数寄せられています。

 

「国はフリーの映像業界スタッフにもきちんと補償してもらえるシステムを早く明確に提示してほしい。収入がゼロの期間分、平均月給の70%くらいを補償してほしい」(40代)

「持続化給付金の上限は個人事業主で100万だが、給付金申請は状況により何度でもできるようにしてほしい」(50代)

 

「⑦仕事状況」や「⑧今後の見通し」で多数回答が寄せられたように、再開後仕事に従事してもすぐ入金されず、収入が得られるまでスパンがかかってしまうという映像業界特有の商慣習があります。

再開後働いても秋まで経済的に持ちこたえられないという方のために、追加持続給付金や補償、融資での支援を是が非でも政府や担当官庁に求めていきたいと思います。

また給付金などの補助金に関し映職連が窓口になれないかという回答も複数ありました。

 

「協会に給付金なり保証金なりを会員分振り込んでいただき、協会から会員に給付、もしくは借りられるようにしてほしい」(60代)

 

これを機に労働条件や契約形態などの改善を映職連に望む声も多く寄せられています。

 

「映像業界全体にはびこる利得権益の古い体質やスタッフの賃金、労働時間、保険等を改善するために非営利の組合がしっかりと声をもって包括的に機能してほしい」(30代)

「今だからこそ映画会社やフリーランスが共に枠組みを共有し、労働環境を見直す機会を得たい」(30代)

「未払いや不当な契約解除をできないように契約書や請求書など紙面文書に残すことを全制作会社に徹底させるべき。互いに意識を変えられるよう映職連でキャンペーンを行って頂きたい」(40代)

 

頂いた声と同様の考えを私たち映職連も持っています。補助金の窓口になったり、映画会社と労働規約や契約の交渉をする団体としての力をより持つべく、法人化など研究を重ねています。そして、若手スタッフから頂いたこんな声を聴くと、映像業界を変えていく必要性を改めて痛感させられます。

 

「今回に限らず普段から2か月休みがなかったり、残業300時間を超え、発熱があっても休めないような状況が当たり前になっている。パワハラやセクハラも横行している。会社や上司のメインスタッフに意見を言うと仕事を失う恐れがあるため、ただ従うしかない。労働者として守られることがない。続けていくのが厳しい」(20代)

 

再開後の現場に向け、早急な対策やガイドラインつくりを望む声も多く寄せられました。

 

「コロナ後の世界でも映像制作が安全かつ安心して行われ継続的な仕事が確保されるよう、映像業界全体で撮影のためのガイドラインが必要だと感じています」(30代ほか多数)

「一定水準の対策を取らぬまま、なしくずしに強引に再開に踏み切ろうとする無謀な制作会社に対してストップをかけられるようなシステムも必要だと思う」(40代)

「密集した場所での演技を多数のスタッフが囲む3密+ノーマスクの状況はリスキー。撮影途中で感染が広まりストップした場合、補償はどうするか?など契約に盛り込むべき」(50代)

 

再開後の撮影・収録に関する感染予防については、5月下旬に日本映画製作者連盟と日本民間放送連盟から、それぞれガイドラインが発表されています。

 

日本映画製作者連盟>

http://www.eiren.org/img/guideline_covid19_200521.pdf

 

日本民間放送連盟>

https://j-ba.or.jp/category/topics/jba103835

 

ただ、新型コロナを巡る状況は大変流動的です。これらを参考にしながら、今後さらにコロナ共生下での撮影方法や補償などについて検討していく必要があるかと思います。

 

 

 

【アンケートを振り返って】

 

アンケートに寄せていただいた声を読むと、改めて、コロナ禍がフリーランスの映像関係者にもたらした被害の甚大さが分かります。このままの窮状が続けば、仕事を廃業、転業してしまうスタッフが続出するだろう、というのがリアルな現実です。

 

また、ギャラの未払いや契約未履行のケースなども沢山寄せられました。

宣言解除後に再開される撮影方法や人員整理への大きな不安もあります。

 

そして、今回のコロナ禍という非常事態を通じて最も露わになったのが、日本の映像業界が抱える労働条件や契約形態の問題ではないでしょうか。それは、

 

「今回のことを機に未払いや不当な契約解除をできないように契約書や請求書など紙面文書に残すことを全制作会社に徹底させるべき」

 

「今だからこそ映画会社やフリーランスが共に枠組みを共有し、労働環境を見直す機会を得たい」

 

――などの寄せられた声が代表していると思います。

 

映職連は映像制作現場で働く様々な職種の団体が集まって結成されている団体です。

その役割が今こそリアルに求められています。

休業に対する補償の訴えや交渉と同時に、再開後のガイドライン作りや契約の仕方等々、早急に動いて行かなければならない問題が山積しています。

ようやく宣言が解けましたが、まだまだ慎重な行動が求められており、なかなか自由に動きづらいのが実状です。しかし、日本の映像業界の灯を絶やさないために、今各協会にできること、映職連にできることを徹底的に話し合い、行動していければと思います。

 

今回、声を寄せられた方の中には映職連の協会員でない方が半分以上いらっしゃいました。

映職連は全員現役の映像関係者が仕事をしつつ同時にこうした活動を行なっています。

組合活動専従の人はいません。

声を上げた方たちにも是非これから参加していただいて、一緒により良い映像業界作りのために活動して頂けたらと思います。